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更年期障害が治らない原因と専門医が教える改善法

更年期障害が治らない理由とは?なかなか改善しない原因を解説

更年期障害の症状が長引いて、なかなか改善しないとお悩みの方は少なくありません。日々の生活に支障をきたすほどのつらい症状が続くと、「このまま治らないのでは」と不安になってしまいますよね。

更年期障害は女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少が主な原因ですが、それだけではなく、加齢による身体の変化や心理的・社会的要因も複合的に関わっています。更年期障害の根本的な引き金は、加齢に伴う卵巣機能の低下です。年齢とともに卵巣内に存在する卵胞の数は自然に減少し、脳の下垂体から分泌される性腺刺激ホルモン(FSH:卵胞刺激ホルモン、LH:黄体形成ホルモン)に対する卵巣の反応性も鈍くなっていきます。また、単にエストロゲンが減少するだけでなく、エストロゲンの分泌が不安定になり急激に変動することも様々な症状を引き起こします。

更年期障害が治らない、または長引く原因としては、以下のようなことが考えられます。

  • 適切な治療を受けていない
  • 生活習慣の乱れが改善されていない
  • ストレスが多い環境が続いている
  • 他の疾患が隠れている
  • 個人の体質や症状の重さ

本記事では、泌尿器科専門医の立場から、なぜ更年期障害が治りにくいのか、その原因と効果的な改善法について詳しく解説します。辛い症状を少しでも和らげるための具体的な方法を知り、快適な毎日を取り戻しましょう。

更年期障害の主な症状と見逃されがちなサイン

更年期障害というと、ほてりやのぼせをイメージする方が多いですが、実際には様々な症状が現れます。症状は大きく3つのカテゴリーに分けられます。

自律神経失調症状

最も特徴的な症状として知られているのが、自律神経の乱れによる症状です。のぼせやほてり、発汗といった血管運動神経症状は更年期障害の代表的なものです。

また、めまいや動悸、息苦しさ、頭痛、肩こりなども自律神経失調によって起こります。これらの症状は日常生活に大きな影響を与え、仕事や家事の効率を下げてしまうことも少なくありません。

特に「めまい」は更年期の女性に多く見られる症状です。これは女性ホルモンの急激な減少によって自律神経のバランスが乱れることが原因です。エストロゲンは手指の血管を拡張して血流をよくする働きがあるため、その減少により血流が悪くなり、様々な症状が引き起こされます。

精神症状

イライラや怒りっぽくなる、情緒不安定、抑うつ気分なども更年期によく見られる症状です。これらの症状は周囲の人にも影響を与えるため、家族関係や職場での人間関係にも支障をきたすことがあります。

何となく気分が落ち込む、やる気が出ない、集中力が続かないといった症状も、更年期障害の一部として現れることがあります。これらの症状が続くと、うつ病と診断されることもありますが、実は更年期障害が原因であることも少なくありません。

泌尿器症状

泌尿生殖器の萎縮と骨盤底筋機能低下(GSM:閉経関連尿路性器症候群)

更年期以降、多くの女性が経験する膣の乾燥、性交痛、頻尿、尿もれといった症状は、かつては「萎縮性腟炎」などと個別に呼ばれていましたが、現在ではこれらを一つの症候群として捉える「閉経関連尿路性器症候群(Genitourinary Syndrome of Menopause: GSM)」という概念が提唱されています。これらの症状は、膣や外陰部、膀胱、尿道といった臓器がエストロゲンの作用に依存してその機能と構造を維持しているため、エストロゲンの欠乏によって組織が萎縮し、脆弱になることで引き起こされます。

特に尿失禁は、単なる加齢現象ではなく、エストロゲン減少が関与するさまざまな病態が関連します。骨盤の底でハンモックのように膀胱や子宮を支えている骨盤底筋群もまた、エストロゲンの影響を受ける組織です。エストロゲンは、骨盤底筋群を構成する筋肉や結合組織の弾力性や強度を維持する上で重要な役割を担っており、その分泌が減少すると、骨盤底筋群が脆弱化する一因となります。

この骨盤底筋群の機能低下は、尿道を適切に支え、締め付ける能力を低下させます。その結果、咳やくしゃみ、重い物を持つなどしてお腹に力が入った(腹圧がかかった)際に、意図せず尿が漏れてしまう「腹圧性尿失禁」を引き起こしやすくなるのです。更年期におけるホルモン変化は、出産経験や肥満、加齢といった他のリスク因子と相まって、骨盤底筋の機能不全を加速させ、泌尿器系のトラブルを助長させる重要な要因となります。これらの症状に対し、近年、Fotona社のインティマレーザー治療やスターフォーマー磁気治療の有効性が示されています。

その他の身体症状

腰痛や関節痛、嘔気、食欲不振、皮膚の乾燥感やかゆみ、外陰部の不快感なども更年期に現れることがある症状です。特に「メノポハンド」と呼ばれる手指の関節の痛みやこわばりは、更年期以降の女性に多く見られます。

日本手外科学会では、更年期の手指の痛みは放っておくと7〜10年で指の変形に進行する可能性があるとして、早期の受診と正しい診断の重要性を啓発しています。

これらの症状は「歳のせいだから」と諦めてしまいがちですが、適切な治療を受けることで改善する可能性があります。症状が長引く場合は、専門医への相談をお勧めします。

更年期障害が治らない5つの原因

更年期障害の症状が長引く場合、いくつかの原因が考えられます。ここでは主な5つの原因について詳しく見ていきましょう。

1. 適切な治療を受けていない

更年期障害は「年齢的に仕方ない」と諦めてしまい、適切な治療を受けていないケースが少なくありません。しかし、更年期障害は治療可能な状態です。

症状に合った専門医に相談し、自分に合った治療法を見つけることが重要です。婦人科や内科、心療内科など、症状に応じた医療機関を受診しましょう。

特に精神症状がつらい場合は、心療内科や精神科、メンタルクリニックなどの専門医に相談することをお勧めします。

2. 生活習慣の乱れ

不規則な生活リズム、偏った食事、運動不足、睡眠不足などの生活習慣の乱れは、更年期障害の症状を悪化させる要因となります。

特に睡眠は重要で、質の良い睡眠が取れないと、ホルモンバランスがさらに乱れ、症状が長引く原因になります。毎日同じ時間に就寝・起床し、睡眠習慣を整えることが大切です。

3. 継続的なストレス

更年期は、子どもの就職や親の介護、自身の昇進など、女性にとってストレスの多い年代です。家庭環境や職場環境などにストレスを感じる人は、症状が強く出やすい傾向にあります。

ストレスは自律神経のバランスを崩し、ホルモンの分泌にも影響を与えるため、更年期障害の症状を長引かせる大きな要因となります。

ストレスを完全に取り除くことは難しいかもしれませんが、ストレスと上手に付き合う方法を見つけることが大切です。趣味や適度な運動、リラクゼーション法などを取り入れてみましょう。

4. 他の疾患の存在

更年期障害と似た症状を引き起こす他の疾患が隠れている可能性もあります。例えば、甲状腺機能障害や自己免疫疾患、うつ病などは、更年期障害と似た症状を示すことがあります。

更年期世代においては、更年期症状に似た別の病気を患っているという可能性も否定できません。心身の不調を更年期だからと一括りにせず、「除外診断」といって自身の体になにか異常がないかを調べることが大切です。

症状が長引く場合は、更年期障害以外の可能性も考慮して、適切な検査を受けることをお勧めします。

5. 個人の体質や症状の重さ

更年期障害の症状の現れ方や重さは、個人によって大きく異なります。あまり症状を感じないまま更年期を終える人もいれば、複数の症状に悩まされる人もいます。

几帳面、神経質、完璧主義、こだわりが強い、依存心が強いなどの性格の人は、更年期症状が重いといわれています。また、体質的に女性ホルモンの変動に敏感な方は、症状が長引きやすい傾向があります。

自分の体質や性格を理解し、無理をせず、自分のペースで更年期と向き合うことが大切です。

更年期障害の効果的な治療法

更年期障害は適切な治療を受けることで、症状を緩和することが可能です。ここでは、主な治療法について解説します。

ホルモン補充療法(HRT)

更年期障害の原因は女性ホルモン(エストロゲン)の減少ですから、少量のエストロゲンを補う治療法(ホルモン補充療法:HRT)が効果的です。特に、ほてり・のぼせ・ホットフラッシュ・発汗といった血管運動神経症状に対して、HRTは非常に有効です。

HRTは関節痛や四肢痛の改善効果も示すことが知られており、「メノポハンド」と呼ばれる手指の痛みやこわばりに対しても効果が期待できます。

通常HRTでは、エストロゲンと黄体ホルモンという、2種類のホルモン剤を組み合わせて投与します(エストロゲン・黄体ホルモン併用療法)。これは、エストロゲン投与による、子宮内膜増殖症や子宮内膜がんのリスクを減らすためです。手術で子宮を摘出した方であれば、黄体ホルモンを併用する必要はありません(エストロゲン単独療法)。

HRTで用いるホルモン剤には、飲み薬や貼り薬、塗り薬、腟錠など、いくつものタイプがあります。それらの投与法もさまざまですから、主治医とよく相談して、最適な治療法を選ぶことが大切です。

漢方療法

漢方薬は、いくつもの生薬を組み合わせて作られています。患者さんの症状や体質(証)に合わせた漢方薬を投与することで、からだとこころの乱れがトータルで回復すると期待されています。

更年期障害で処方されることが多いのは、当帰芍薬散、加味逍遙散、桂枝茯苓丸などです。これらの漢方薬は、ほてりやのぼせ、イライラ、不安感などの症状に効果があるとされています。

その他の薬物療法

症状に応じて、抗うつ薬や向精神薬などが用いられることもあります。特に、うつ症状や不安感が強い場合には、これらの薬剤が処方されることがあります。

また、当院では更年期サプリ「エイジハック」を採用しています。エイジハックに含まれる主成分であるジオスゲニンは、ホルモンバランスを整える働きがあると考えられています。

ジオスゲニンは体内で作られるホルモンに似た構造をしており、更年期にみられるホルモンの乱れを整える効果が期待できます。また、抗酸化作用や抗炎症作用も持ち合わせており、更年期症状の緩和に役立つ可能性があります。

カウンセリング・心理療法

更年期の心身の不調に対し、カウンセリングを受けることにより自分自身の問題を整理・認識し、ストレスを軽減していく方法も効果的です。

特に、精神症状が強い場合や、家庭や職場でのストレスが大きい場合には、心理療法が有効なことがあります。専門のカウンセラーに相談することで、ストレスの原因を特定し、対処法を見つけることができます。

更年期障害を自分で改善するための生活習慣

病院での治療と並行して、日々の生活習慣を見直すことも更年期障害の症状改善に大きく役立ちます。ここでは、自分でできる改善法をご紹介します。

食生活の改善

バランスのよい食事を心がけましょう。特に、大豆製品に含まれるイソフラボンは、女性ホルモンに似た働きをすることから、更年期障害の症状緩和に効果があるとされています。

また、カルシウムやビタミンD、ビタミンEなどの栄養素も積極的に摂取しましょう。これらの栄養素は、骨粗しょう症の予防や血流改善に役立ちます。

食事は時間を決めて3回、塩分を控えて腹八分目にしましょう。大豆食品やアーモンド、アボカド、かぼちゃなどは、血流を促し自律神経のバランスを整えるビタミンEを豊富に含んでいるのでおすすめです。また青魚類は血液をサラサラにしてくれるEPAやDHAを豊富に含み、血圧の安定が期待できます。

適度な運動

適度な運動は、自律神経のバランスを整え、ストレス解消にも効果的です。ウォーキングやヨガ、水泳など、自分に合った運動を継続的に行いましょう。

運動不足は血管運動神経症状の危険因子です。また、運動により抑うつ状態が改善されたというデータもあり、適切な運動は更年期症状を改善する効果があります。

ただし、無理な運動は逆にストレスとなることもあるので、自分のペースで続けられる運動を選ぶことが大切です。

質の良い睡眠

質の良い睡眠は、ホルモンバランスの調整や自律神経の安定に重要です。毎日同じ時間に就寝・起床するなど、規則正しい生活リズムを心がけましょう。

寝る前のスマートフォンやパソコンの使用は控え、リラックスできる入浴や読書などを取り入れると良いでしょう。また、寝室の環境も重要です。適度な温度と湿度、静かな環境を整えることで、睡眠の質が向上します。

ストレス管理

ストレスは更年期障害の症状を悪化させる大きな要因です。自分なりのストレス解消法を見つけ、定期的に実践しましょう。

趣味や友人との交流、リラクゼーション法(深呼吸、瞑想、アロマテラピーなど)を取り入れることで、ストレスを軽減することができます。

また、何でも一人で抱え込まず、家族や友人、専門家に相談することも大切です。話すことでストレスが軽減されることもあります。

更年期障害の専門医を選ぶポイント

更年期障害の治療を受ける際は、適切な専門医を選ぶことが重要です。ここでは、専門医選びのポイントをご紹介します。

どの診療科を選ぶべきか

更年期障害の症状は多岐にわたるため、症状に応じて適切な診療科を選ぶことが大切です。

更年期症状全般で悩んでいる場合は「婦人科」にかかるのが一般的です。更年期症状なのか、他の病気なのか判断ができない場合や、かかりつけ医がいる場合は「内科」を受診してもよいでしょう。

また、精神症状がつらい場合は「心療内科」「精神科」「メンタルクリニック」など、専門医に相談することをおすすめします。

日本女性医学学会や性差医療情報ネットワークのホームページでは、更年期外来や女性外来のある医療機関が検索できるようになっています。お近くの病院を検索して受診してみましょう。

専門医との相談のポイント

専門医に相談する際は、自分の症状をできるだけ具体的に伝えることが大切です。いつから、どのような症状があるのか、どのようなときに症状が強くなるのかなど、詳しく伝えましょう。

また、現在服用している薬や、過去の病歴なども正確に伝えることが重要です。これらの情報が、適切な診断と治療につながります。

さらに、治療法についても積極的に質問しましょう。治療の効果や副作用、治療期間などについて、十分に理解した上で治療を始めることが大切です。

検査の重要性

更年期症状によく似た別の病気が隠れていないかを調べるため、適切な検査を受けることも重要です。

更年期ドックなどで、女性ホルモンの状態や骨密度、甲状腺機能など、全身の健康状態を調べることをお勧めします。

特に、40代、50代の方で更年期症状が気になる方は、ご自身の体の状態をチェックできる「更年期ドック」を受けてみてはいかがでしょうか。

まとめ:更年期障害は適切な対応で改善できる

更年期障害は、女性ホルモンの減少による自律神経の乱れが主な原因ですが、加齢による変化や心理的・社会的要因も複合的に関わっています。症状が長引く場合は、適切な治療を受けていない、生活習慣の乱れ、継続的なストレス、他の疾患の存在、個人の体質や症状の重さなどが原因として考えられます。

更年期障害の治療法としては、ホルモン補充療法(HRT)、漢方療法、その他の薬物療法、カウンセリング・心理療法などがあります。また、食生活の改善、適度な運動、質の良い睡眠、ストレス管理などの生活習慣の改善も重要です。

更年期障害で辛い症状に悩まされている方は多くいます。我慢して症状が落ち着くのを待つのではなく、専門医の診察を受け、適切な治療を受けることが症状の緩和や改善につながります。

当院では、更年期障害をはじめとする女性特有の悩みに対して、一人ひとりに合った治療法をご提案しています。つらい症状でお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

詳しい情報や診療時間については、皆川クリニック公式サイトをご覧ください。皆様の健やかな毎日をサポートいたします。

著者情報

皆川真吾

医学博士・泌尿器科学会専門医・指導医

泌尿器内視鏡学会腹腔鏡手術認定医

CVP(接触式前立腺レーザー蒸散術)プロクター

埼玉県出身。平成13年に秋田大学医学部医学科を卒業後、同大学医学部附属病院、虎ノ門病院、NTT東日本関東病院、聖路加国際病院などで研鑽を積み、令和2年に皆川クリニックを開設。泌尿器科専門医として、日々の診療に携わっています。

Best Doctors in Japan 2024-2025にも選出。ベストドクターズ公式サイト:https://bestdoctors.com/japan/

詳しい診療内容や診療時間については、皆川クリニック公式サイトをご覧ください。

【参考文献】

日本女性医学学会:「更年期を心地よく過ごすために知っておきたいこと」

日本産科婦人科学会:「更年期障害」

日本手外科学会:「メノポハンド」に関する啓発資料

 

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